瀬川あずささん・インタビュー

瀬川あずささん・インタビュー

瀬川あずささんインタビュー

  

大自然と長い歴史によって育まれたスロベニアワインは、料理の美味しさを引き立てる名パートナーです。でもどんな料理にどんなワインを合わせるか、少し難しく感じることもあるかもしれません。

今日は日本を代表する若手女性ワインジャーナリストである瀬川あずささんから話をお聞きしながら、そのヒントを見つけていきたいと思います。

是非お気に入りのワインを見つけて、「スロベニアワインと料理のマリアージュ」を楽しんで下さい!

 

 

質問者:スロベニアワインを飲まれて、どんな印象をお持ちになりましたか?

 

瀬川氏:「クリアで洗練されている」という全体的な印象を持ちました。土着品種のものもありましたが、意外にも国際品種を綺麗に作っているというのが印象的でした。以前に飲んだワインがオレンジワインだったので、もう少し土着感が強いのかと思っていました。

 

質問者:飲む前のイメージと違っていた訳ですね。

 

瀬川氏:そうですね。すごい現代的な感じでした。だからこそ、今の食生活にはマッチしているのかな、という印象でしたね。

 

質問者:過去にはどんなスロベニアワインを飲まれたんでしょうか?

 

瀬川氏:オレンジワインですね。お豆の煮込み系みたいな料理と合わせました。ただ今回飲んでみて、お料理のマリアージュの幅がすごい広いというか、邪魔する要素が余りないと感じました。「これに合わせなきゃ」とか考えずに、幅広いシーンで楽しめるな、と。日本の食卓って「今日はフレンチだ」「今日はイタリアン」だとか、そういう感じじゃないじゃないですよね。味噌汁もあって、ハンバーグもあるみたいな、そういう食卓にもすごく馴染むし。日本の食とすごく親和性があると感じますね。

 

日本の料理って、どちらかというと力強いよりも繊細で、旨味だったり滋味だったりとか、そういう部分で綺麗に引き立ててくれるのが特徴ですよね。もちろんスロベニアワインは単体としての魅力もありますけれども、お料理を邪魔せずにきちんと寄り添ってくれる万能なワイン(※①)で、そういう絶妙なポジションにいてくれそうな感じがありますね。

 

※【注釈①】

ZLATI GRIC Sivi Pinot(ズラティ グリック シヴィ ピノ)

瀬川さんもお勧めのワインで、ピノ・グリという薄紫色の果皮から造られるワインです。桃色の色調で、主張し過ぎない味わいは、魚にも肉にも、もちろん日本の家庭料理にも、相性がぴったりです。

 

瀬川氏:あとは今流行りのヴィーガン系の野菜料理とかお豆料理とか、そういう料理とかにも相性が良いと思います。こってりしたソースや複雑な調味料でいろいろ味付けしている料理よりも、素材の魅力を引き出したようなシンプルなお料理と親和性が高いと思いました。

 

質問者:確かにスロベニアワインは優しい味わいですよね。

 

瀬川氏:そうですね。最近のモダンフレンチはすごく軽やかで、フィンガーフードのような軽いものとか、素材を引き出したものとかが流行りですが、グランメゾンのフレンチよりも、そういったライトなお料理との相性が良い気もします。

 

質問者:価格帯としてはいかがですか?

 

瀬川氏:もし1000~2000円台で飲めれば、どれも綺麗でクオリティーが高いので、とてもコスパは良いと思います。その金額であれば、家庭でも気軽に取り入れられますし、色々な料理と調和しそうですよね。ちょっと軽めのエスニックとか、意外とタイ料理やベトナム料理でもいけるかもしれませんね。中華で力強い料理だと難しいかもしれませんが、和食には全般的に合いますよね。最近のモダン・イノベイティブ系の料理との相性も良さそうですね。

 

質問者:例えばレストランであれば、どんなシーンでスロベニアのワインを提供できると思いますか?

 

瀬川氏:そうですね、ペアリングの中に入れてもらうのが良いと思います。ペアリングってまずは一定の予算があって、その中でいろんなワインを盛り込みますよね。最近は日本酒を入れることも多いんですが、それは美味しいという側面と同時に、コストを抑えられるのと、「え、日本酒」っていう驚きや面白みがあります。そこに例えばスロベニアワインを組み込めば、「え?スロベニアのワインがあるんだ」って思う人は多いはずですね。ペアリングにはフレンチワインを合わせるのが定番ですけど、そこにスロベニアワインを使えば、とても印象に残るんじゃないかなと思います。

 

質問者:スロベニアワインは本当に多様ですよね。個々のワインにはどんな印象を持ちましたか?

 

瀬川氏:特にスパークリングが面白いなと思いました。特にフルミントの瓶内二次発酵のワイン(※②) が秀逸でした。複雑味もありながら、酵母のニュアンスもあって良かったです。あとはロゼのスパークリング(※③)も、女子会に似合いそうです。どれも洗練されていて、いろいろ変化があって面白かったです。特にフルミントの泡は珍しいですよね。

 

※【注釈②】

DVERI PAX DP BRUT 2016 (ドヴェリ パックス DP ブリュット 2016)

本来は貴腐ワインに用いられるフルミントを、敢えて早摘みして辛口に仕上げたスパークリングワインです。イースト香や柑橘系の香り、しっかりとしたミネラルも感じられる複雑な味わいで、ペアリングに組み入れれば、料理との意外な調和を楽しめます。

 

 

※【注釈③】

RADGONSKE GORICE zlata radgonska penina Rose(ラドゴンスケ ゴリツェ ゼルタ ラドゴンスカ ペニーナ ロゼ)

ピノ・ノワールから造られるロゼのスパークリングワインで、食卓を彩ります。最初はフレッシュな味わい、そして余韻には甘美な果実味が残り、そのエレガントな色調は、特別なパーティーに華を添えること間違いなしです。

 

 

 

瀬川氏:あとはロゼやミュスカ(※④)もみんなが飲んで美味しいと思える、品種の個性がちゃんと出ている綺麗な泡という印象でした。シャルドネ(※⑤)も飲む前はニュートラルなイメージを持っていたんですが、実際には少しエキゾチックな味わいでしたね。

 

※【注釈④】

RADGONSKE GORICE Muskat Polsladko(ラドゴンスケ ゴリツェ ミュスカ)

ミュスカ種で作られた珍しいスパークリングワインで、ミュスカ種が持つマスカットのような香りに、蜂蜜のような甘い余韻が加わります。軽やかで、親しみやすい味わいです。

 

 ※【注釈⑤】

RADGONSKE GORICE Srebrna Radgonska Penina (ラドゴンスケ ゴリツェ スレブルナ ラドゴンスカ ペニーナ)

シャルドネで作られたスパークリングワインで、きめ細かな泡立ちと爽やかなライムのような香り、そして特有のエキゾチックなアロマは、単体で飲んでも美味しく、またエスニック系の料理と合わせれば、その魅力を一層引き立ててくれます。

 

 

質問者:少し周辺国のワインとも印象が違いますよね。

 

瀬川氏:本当にそうですね。ワイン愛好家の皆さんも、スロベニアがイタリアの近くにある、ということは覚えているんですが、詳しい情報は広がっていないんですよね。でも実際にはとても洗練されていて、本当に魅力的ですよね。小規模生産者が多いのに、これだけ質が高いのは珍しいと思います。

 

最近はジョージアワインやギリシャワインの人気も上がっていますよね。例えばギリシャワインは土着品種を使っているけれど、同時に洗練された味わいで作られているのが受けていますよね。またジョージアはジョージアで、ワインの歴史の起源で、オレンジワインが盛り上がっていますし。ただスロベニアワインには、そういったワインとも異なる魅力がありますよね。フランスワインやイタリアワインのような、旧世界のワインとも通じる魅力がありますね。

 

質問者:どんな料理とスロベニアワインの相性が良いと思われますか?

 

瀬川氏:やっぱり和食でしょうかね。私は生姜が大好きで料理にも良く使うんですが。オレンジワインとの相性が最高なんです。スロベニアワインとの相性も良いと思いますね。あとはお肉料理ですかね。赤身の肉というよりは、豚肉や鶏肉のような、ピンクや白のお肉との相性が良いと思います。とんかつや冷しゃぶなどは、良く冷えたスロベニアワインと合わせやすいんじゃないでしょうか。

 

質問者:どうすればスロベニアワインの認知度を上げられると思いますか?

 

瀬川氏:ほとんどの日本人は、スロベニアという国のことを余り知らないと思います。だからワインに加えて、食生活とか、国民性とか、そういう情報が一緒にあると、より認知度が高まる気もします。またただ味わいを紹介するだけではなくて、スロベニアの歴史や文化も紹介して、「旅行に行きたい」って思わせるような提案が出来れば良いと思います。きっと旅行が好きな人たちは、その国の食文化にも関心を持っていると思うので、逆にそちらの方面からのアプローチも面白いかもしれませんね。

 

同時にライトな層だけでなく、ワインラバーにも訴求できると思います。例えばジョージアワインの歴史は8000年と言われていますが、最初はその長い歴史に魅力を感じてワインを飲み始めて、次第にオレンジワインの味わいに魅了された人も多いですね。最近は天ぷら屋さんでもオレンジワインが出てきました。そういったワインに精通した方々でも、スロベニアワインはまだ知られていないので、きっと魅力的に映ると思います。近隣のオーストリアやハンガリーのワインとも違う魅力がありますし、スロベニアワインの魅力に気づくワインラバーも今後は増えるでしょうね。

 

質問者:逆にスロベニアワインの弱点って何だと思いますか?

 

瀬川氏:そうですね。例えばオーストリアならばグリューナー・ヴェルトリーナー、イタリアならばネッビオーロみたいに、代表的な土着品種がない事かもしれません。でも逆に言うと、土着品種(※⑥)も著名ではないですが植えられていますし、国際品種でも上質なワインが造られています。逆に言うと、むしろそのバランスの良さがスロベニアワインの魅力かもしれませんね。

 

※【注釈⑥】

RADGONSKE GORICE Pet Nat Ranina (ラドゴンスケ ゴリツェ ペット ナット レニーナ

土着品種のレニーナを使ったスパークリングワイン。無濾過および無清澄で作られているので、スロベニアのテロワールの魅力をダイレクトに感じることができます。バランスの取れた味わいでありながら、旨みや滋味も残っている貴重な一本です。

 

瀬川氏:あとはやはり知名度が低いので、SNSYouTubeなどを通じて、スロベニアワインの魅力を語るコンテンツが発信できれば良いんじゃないでしょうか。今のところ、そういうコンテンツは余りないですよね。そしてそれが一過性でなく、継続的に発信されていく事が大切だと思います。

 

質問者:今日は本当にありがとうございました。

 

瀬川氏:すごく美味しかったですし、面白かったです。貴重な体験をありがとうございました。

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