 
            歴史とテロワールを探求するスロベニアのワイナリーの数々:後編
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歴史とテロワールを探求するスロベニアのワイナリーの数々:後編
スロベニアワインは長い歴史を持つ隠れた銘醸地の産物で、ブドウ栽培に適した気候と多様な土壌を有しています。国内には無数のワイナリーが存在し、多彩で高品質なワインを生産しており、近年は国際的なワインコンクールでも注目を集めていますが、日本での知名度はまだ高くありません。その中でも特に魅力的なワイナリーについて、コラムの前半では3つのワイナリーに注目しましたが、後半では2つの珠玉のワイナリーに焦点を合わせてみたいと思います。
ヴィナグ 1847 (Vinag 1847):スロベニアの歴史を体現するワイナリー 

Vinag 1847は、スロベニアのマリボル(Maribor) に拠点を置く、スロベニアで最大規模かつ最も歴史のあるワイナリーの一つです。その名前が示すように、このワイナリーは1847年に設立されており、スロベニアのワイン造りの歴史を語る上で欠かせない存在です。最大の特徴は大規模な地下セラーを持ち、そこで高品質なワインを生産し続けている点です。
1. 所在地と周辺環境
Vinag 1847は、スロベニア北東部のシュタイエルスカ・スロベニア (Štajerska Slovenija)地域、ポドラウィエ地方の中心都市であるマリボル(Maribor) に位置しています。マリボルはドラーヴァ川 (Drava River)沿いに発展した都市で、ワイン造りが非常に盛んな地域です。ワイナリーはマリボルの中心部に位置し、歴史的な建造物としても名を馳せています。
2. 生産量と栽培面積
Vinag 1847は、スロベニア最大規模のワイナリーの一つであり、年間の生産量は約300万本に達します。これはスロベニアのワイナリーの中ではかなり大きな規模であり、国内外の市場にも広く流通しています。Vinag 1847は自社畑だけでなく、契約農家からのブドウも使用することで、生産量を安定させています。自社畑の面積は約50ヘクタールですが、契約農家の畑を含めると、さらに広大な面積となり、ブドウ畑はマリボル周辺の丘陵地帯に広がり、多様なテロワールを有しています。
3. 栽培品種
Vinag 1847では、様々な種類のブドウ品種を栽培しています。
ラシュキ・リースリング(Laški Rizling, Welschriesling)
シュタイエルスカ・スロベニア地域で最も広く栽培されている品種の一つで、Vinag 1847でも重要な品種です。フレッシュでフルーティーな味わいが特徴です。
ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)
世界的に人気のある白ブドウ品種であり、ハーブやグーズベリーのようなアロマと、爽やかな酸味が特徴です。
リースリング(Renski Rizling)
リースリングはドイツ原産の白ブドウ品種であり、柑橘類やリンゴ、蜂蜜のようなアロマに加えて、高い酸味が特徴です。
シャルドネ(Chardonnay)
世界的に人気のある白ブドウ品種で、様々なスタイルで醸造され、幅広い料理と相性を合わせることができます。
ピノ・ノワール(Modri Pinot, Pinot Noir)
ブルゴーニュ地方原産の赤ブドウ品種で、繊細な香りとエレガントな味わいが特徴です。
4. 歴史
Vinag 1847はその名の通り、1847年に設立されました。彼らは豊かな歴史を持つだけでなく、その伝統を今に至るまで踏襲しています。Vinag 1847は設立当初、主に地元向けのワインを生産していましたが、徐々に規模を拡大し、国内外の市場に販路を広げていきました。さらに20世紀に入ると、社会主義体制下で国営企業となり、大規模な投資が行われました。最盛期には旧ユーゴスラビア最大のワイン生産者および輸出業者の一つにまで成長しました。スロベニアの独立後、ワイナリーは再び民営化され、現在は複数のオーナーによって運営されています。Vinag 1847はその長い歴史の中で、スロベニアのワイン造りの発展に大きく貢献してきたと言えます。
大規模な地下セラーは、15,000平方メートルの広さを誇り、地下トンネルの長さは2.1kmに及びます。このセラーも最も古い部分は1847年に建設されており、木製の樽やコンクリートタンクが鎮座し、ワインボトルの総容量は300万リットルに及びます。そして注目すべきはアーカイブワインの数々で、現在は85000 本が保管されています。このセラーは歴史的な価値が非常に高く、観光名所としても知られています。
5. ワインのラインナップ
リーズナブルなものから、フラッグシップのものまで、Vinag 1847は幅広いワインラインナップを取り揃えています。
ラシュキ・リースリング(Laški Rizling, Welschriesling)
Vinag 1847の定番ワインであり、フレッシュでフルーティーな味わいが特徴です。特に「Nobleライン」のものは複雑でミネラル感があり、心地よいフレッシュさがあります。
ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)
ハーブやグーズベリーのようなアロマと、爽やかな酸味、フレッシュさを強調した、柑橘系の後味とミネラル感のあるワインです。「GREAT AMERICAN 2023」のコンペティションにおいては、プラチナメダルも獲得しています。
リースリング(Renski Rizling, Riesling)
柑橘類やリンゴ、蜂蜜のようなアロマと、高い酸味が特徴で、芳醇かつ心地よいフレッシュさを感じます。
シャルドネ(Chardonnay)
Vinag 1847の主要ランナップの一つで、花や黄梨、ザボン、白桃、ほのかな草の香りとバターの香りも感じられます。新鮮さを重視した柔らかな舌触りで、濃厚かつ持続性がある味わいです。
ピノ・ノワール(Pinot Noir)
しっかりとした花の香りは、赤いベリー、森の果物、お香を彷彿とさせ、サワーチェリーの余韻も漂います。適度な酸味があり、口の中で美しい丸みを帯びるフルボディのワインです。後味にオークの香りが残ります。
ペニーナ(Penina)
Vinag 1847が誇るスパークリングワインで、その品質には定評があります。特にシャルドネ・ブリュット(Chardonnay Brut)は、「ソムリエセレクション2023」のコンペティションでスパークリングワイン部門最優秀食前酒に輝いており、ワイン愛好家からも高い評価を受けています。
このようにVinag 1847は幅広い価格帯のワインを提供しており、日常的なワインから高級ワインまで、様々なニーズに対応が可能です。
Vinag 1847のラインナップはこちら
6. ワイン造りの理念
Vinag 1847は、長年の経験と伝統に基づいて、高品質なワインを造っています。自社畑だけでなく、契約農家からのブドウも使用しており、多様なテロワールを活かしたワイン造りを行っています。醸造は最新の技術を導入しながらも、伝統的な手法も大切にしています。ワインはオーク樽やステンレススチールタンクで熟成され、大規模な地下セラーは、温度と湿度が一年を通して安定しており、ワインの熟成に最適な環境を提供しています。
7. まとめ:
Vinag 1847は、スロベニアのマリボルに拠点を置く、スロベニアで最大規模かつ最も歴史のあるワイナリーの一つです。スロベニアのワイン造りの歴史を語る上で欠かせない存在であり、大規模な地下セラーは高品質なワインを提供し続けています。その地下セラーに足を運べば、皆さまもその空間の壮大さと物語を感じ取ることができるに違いありません。スロベニアを訪れる際には、ぜひその物語と共に、Vinag 1847のワインをお楽しみください。

ラドゴンスケ・ゴリツェ(Radgonske Gorice):スロベニアの崇高な輝き
ラドゴンスケ・ゴリツェ(Radgonske Gorice)は、スロベニア北東部、シュタイエルスカ地方(Štajerska)に位置する、スパークリングワインの名門ワイナリーです。その歴史は1852年まで遡り、スロベニアにおけるスパークリングワイン造りのパイオニアとして、国内外で高い評価を得ています。

1. 所在地と周辺環境
ラドゴンスケ・ゴリツェは、スロベニア北東部のシュタイエルスカ地方、ラドゴナ市にあります。ラドゴナは、オーストリアとの国境に近いドラーヴァ川沿いに位置し、美しい丘陵地帯と豊かな自然に囲まれた静かな街です。ワイナリーはラドゴナの中心部に位置し、周囲にはブドウ畑が広がっています。
シュタイエルスカ地方は、スロベニア最大のワイン産地であり、温暖な大陸性気候と肥沃な土壌が豊かなワインを生み出します。特にラドゴンスケ・ゴリツェ周辺の地域は、スパークリングワインの原料となるブドウ栽培に適しており、高品質なスパークリングワインの基盤となっています。
2. 生産量と栽培面積
ラドゴンスケ・ゴリツェの年間生産量は、約400万リットルに達します。これは国内屈指のスパークリングワイン生産量であり、スロベニアのワイン産業の中で、彼らが果たす役割は非常に大きいと言えます。
ラドゴンスケ・ゴリツェは自社畑と契約農家の畑を合わせて、約500ヘクタールのブドウ畑を所有・管理しています。これらの畑はラドゴナ周辺の丘陵地帯に広がっており、絵のように美しいブドウ園は、海抜220~240 メートルの斜面に植えられています。土壌は主に粘土と砂岩で構成されており、多様な土壌と気候がバラエティ豊かなスパークリングワインを生み出しています。
3. 栽培品種
ラドゴンスケ・ゴリツェでは、主にスパークリングワインの原料となるブドウ品種を栽培しています。代表的な品種は以下のとおりです。
シャルドネ(Chardonnay)
スパークリングワインの主要品種であり、世界中で広く栽培されています。
ピノ・ノワール(Pinot Noir)
ブルゴーニュ地方原産の赤ブドウ品種で、繊細な香りと、エレガントな味わいが特徴です。
ラシュキ・リーズリング(Laški Rizling)
シュタイエルスカ地方を代表する品種であり、スパークリングワインにも用いられます。
その他、リースリング、シポン、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリなども栽培されています。
これらの品種を、伝統的な製法と最新の技術を駆使して醸造し、高品質なスパークリングワインを生産しています。
4. 歴史
ラドゴンスケ・ゴリツェの歴史は、1852年まで遡ります。フランスのシャンパーニュ地方でスパークリングワイン造りを学んだクライノシェク(Kleinošek)が、ラドゴナで12,000本のスパークリングワインの生産を始めたのが起源とされています。クライノシェクはシャンパーニュ地方の伝統的な製法(瓶内二次発酵)をスロベニアに導入し、高品質なスパークリングワインを造り始めました。
その後、所有者の変更や世界大戦を経験し、社会主義時代には国営ワイナリーとして接収を経験しました。しかしスロベニア独立後は再び民営化され、自由なワイン造りを行うことができるようになりました。そして現在に至るまで、ラドゴンスケ・ゴリツェは国内外で高い評価を得続けており、スロベニアにおけるスパークリングワイン造りのパイオニアとして、その地位を確固たるものにしています。
5. ワインのラインナップ
ラドゴンスケ・ゴリツェは多様なスパークリングワインのラインナップを誇っており、それぞれのワインは多様な個性と、美しい泡立ちを有しています。主なワインラインナップは以下のとおりです。
ズラタ・ラドゴンスケ・ペニナ(Zlata Radgonska Penina)
ラドゴンスケ・ゴリツェを代表するスパークリングワインで、シャルドネを主体とし、澱とともに 36 か月間熟成され、瓶内二次発酵で造られています。繊細な泡と、フレッシュな酸味、柑橘系の香りが特徴で、国内外で高い評価を得ています。
スレブルナ・ラドゴンスケ・ペニナ(Srebrna Radgonska Penina)
「銀のラドゴンスケ」という意味を持つスパークリングワインです。シャルマ方式で造られ、柑橘の香りに加え、繊細な泡を楽しむことができ、エレガントで軽快な味わいが特徴です。
ズラタ・ラドゴンスケ・ペニナ・ロゼ(Zlata Radgonska Penina rose)
ピノ・ノワールを使用し、瓶内二次発酵で造られたロゼ・スパークリングワインです。美しいサーモンピンクの色調で、ブリオッシュやベリーのニュアンスに程よい熟成感が加わった、フレッシュな酸味の素晴らしいバランスが特徴のワインです。
ペットナット・レニーナ(PET NAT Renina)
Pet-Nat はフランス語の petillant-naturelle の「愛着のある」略語で、メトード・アンセストラルという製法で作られます。これは発酵が完了する前に瓶詰めされることで気泡を残す製法で、蜂蜜やオレンジの香りがほのかに漂います。口の中にブドウの果実味が広がり、非常に繊細で上品な発泡ワインに仕上がっています。
スレブルナ・ラドゴンスケ・ペニナ・マスカット(Srebrna Radgonska Penina muscat)
ワインは酵母で短期間だけ熟成され、マスカットの香りや心地よく生き生きとした果実味を楽しめます。フルーティーで非常に軽快なスパークリングワインです。
6. ワイン造りの理念
ラドゴンスケ・ゴリツェは長い伝統に裏打ちされた、丁寧な生産を心がけています。ブドウは日当たりの良い斜面で栽培され、甘美な味わいと新鮮さが特徴です。彼らは伝統的な手法を守りながらも、最新の技術を取り入れることに尽力しており、その類まれな品質の高さは、不断の努力の結晶と言っても過言ではないでしょう。
7. まとめ
ラドゴンスケ・ゴリツェは、スロベニアにおけるスパークリングワイン造りのパイオニアとして、170年以上の歴史を持つ名門ワイナリーです。彼らはスロベニアのスパークリングワイン文化を国内外に発信する役割も担っており、国内外のコンペティションで賞も得ています。ラドゴナを訪れた際には、ぜひラドゴンスケ・ゴリツェに立ち寄り、その歴史と味わいを体験してみてください。
 
              























