スロベニアワインとロシア・ウクライナ戦争
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戦争を追い風に変えたスロベニアワイン―逆境から世界へ羽ばたく小国の挑戦
スロベニアは人口200万人の小国ながら、古代ローマ時代から続くワイン造りの伝統を守り続けてきた国です。ブドウ畑は国土全体に広がり、多くのワイナリーは家族経営で営まれています。しかし2022年、ロシアによるウクライナ侵攻は、戦場から遠く離れたワイン産業にも大きな影響を及ぼしました。
このコラムでは、危機に直面したスロベニアのワイン産業が、いかにその難局を乗り越え、逆にそれをどのように国際市場での存在感を高める契機としたのか、その歩みを追っていきたいと思います。
戦争がスロベニアのワイン産業に及ぼした影響
まず大きな影響を受けたのはワインボトルです。ご承知の通り、ワインボトルにはガラスが用いられますが、戦争の影響でガラスの供給が滞り、製造原価が高騰しました。さらに産業用電力価格も上昇し、2023年の上半期には1kWhあたり0.2ユーロを超え、史上最高値を更新しました。スロベニアは個人や家族で営む中小ワイナリーが多いため、こういった急激な変化は重い負荷として経営にのしかかりました。
影響が大きかった別の側面は輸出規制です。EUはロシア制裁の一環で、300ユーロ以上のボトルを対象に禁輸措置を発動しました。
スロベニアワインの多くは中価格帯のため、このレンジに該当しませんでしたが、それでもロシア国民にとって心理的なブレーキとなったようで、ロシア向けの輸出に急ブレーキが掛かりました。これにより多くのワイナリーの売上が減少しました。
スロベニアワイナリーの戦略的対応と成功事例
この状況に対して、スロベニアワインの生産者はすぐに行動を起こします。まず少なからずロシアに依存していた輸出先を見直し、アメリカやクロアチア、オランダなどの市場を開拓して、それらの国々への輸出量を増加させることに成功します。
また2022年は戦争の影響もあり、欧州内の物流も不安定でしたが、その中でもサプライチェーンを見直すことで、輸送の停滞を最小限にとどめることができました。
さらに影響を受けた別の側面は観光です。
ワインツーリズムはスロベニアの観光産業の一翼を担っていますが、EUの制裁の影響により、ロシアからの観光客が激減します。
それでもEU域内からの観光客数は底堅く、アメリカやアジアからの旅行者は逆に増加しました。
その結果、2023年には年間1610万泊という戦争前の水準を取り戻し、ここでもスロベニアのワイン産業の堅実さが見られました。
ではこういった市場の変化に対して、各々のワイナリーはどのように対応したのでしょうか?いくつか事例を見てみましょう。
例えば1820年創業で、プリモルスカのゴリシュカ・ブルダにあるMoviaは、戦争の影響でロシア向けの輸出が滞りました。
しかしワインツーリズムを全面に押し出すことで、売上を維持しました。具体的には、首都リュブリャナに自前で構えるレストラン「Vinoteka Movia」をハブとして、飲食とワイナリーツアーをパッケージで販売し、売上の増加に繋がりました。
さらに同じくゴリシュカ・ブルダにあるAleks Klinecは、世界的にも注目度の高いオレンジワインのPRおよびブランディングに注力します。
これによりワイン専門誌が彼らのワインを取り上げ、海外からのオーダーも増加しました。
また戦争は電力代やガス代の高騰をもたらしましたが、それらにもスロベニアのワイナリーは首尾よく対峙しています。
一例を挙げれば、カルスト地方にあるCotarは自然派ワインの生産者として有名ですが、ワイン醸造過程での果汁の移動に重力流を利用したり、低温管理の最適化を図ったりすることにより、「省エネのワイン造り」を徹底しました。
こうした努力により、使用電力量を減少し、同時に質の向上にも成功しました。
スロベニアワインの復活と国際市場での評価
これらのたゆまない努力の成果は、数字にも表れています。例えば戦争の影響を受けて、スロベニアの2022年度のワイン生産量は58.9万hlと、前年比で19%も減少しました。
これを受けて各ワイナリーは、量で勝負するよりも、質と価格で勝負する方向に舵を切ります。その結果、翌年の世界輸出額は1830万ドルに達しました。
スロベニアワインはこれまでも毎年100万ドル程度輸出額を伸長させてきましたが、戦争の余波を受けた苦境の中でも、このペースを維持する事ができたのです。このような増加の背景には、ワイン生産を管轄する「スロベニア農業林業食品省」と、政府系輸出支援機関である「スピリット・スロベニア公社」の支援も関係しています。
こうして官と民が一致して、肩を並べて走ることで、スロベニアのワイン産業は戦争の危機を乗り越えることができたのです。
確かにロシアのウクライナ侵攻は、スロベニアワインにも大きな打撃を及ぼしました。資材や電力は高騰し、物流は滞りました。
にもかかわらず、輸出の再分配やワインツーリズムの再構築、より高価格帯を目指した再ブランディングにより、スロベニアワインは不死鳥のごとく復活を遂げました。最大の危機を、品質を向上させる好機へと転換したのです。
私たちはスロベニアワインを飲むときに、単なる味わいだけでなく、逆境を超えて磨かれた物語も感じ取ることができるでしょう。
























